編集者ってどんな仕事するの?と聞かれて、明快に即答できる編集者はどれだけいるだろう。得られた答を並べても、質問者が「なるほど」と得心がいくかは個人的には甚だ疑問である。というのも、この仕事には、どうも定型はないようなのである。

書籍が印刷されるまでの行程をざっと並べると、企画/執筆/原稿整理/校閲・校正 となる(並行してデザイン関連の行程が入る)が、実は、会社や個人、本によっても、編集者の仕事は異なる。例えばどんな本を作るかを考えること(企画)を専門にする人がいる。一方、すべての行程を1人で担当している人もいる。仕事の内容に差はあれど、みな肩書きは "編集者"。説明しづらいわけである。今回、この手紙で明文化したおかげで、いずれ出会う未来の仕事相手に聞かれたときには、もう少しうまく言語化できるかもしれない。

仕事の内容はケース・バイ・ケースだが、共通するのは「その本の読者を常に念頭におく」こと。専門書の場合には、もう1つの共通点があるように思う。それは、自らは編集した本の情報の利用者ではない、ということ。そのため、専門書の場合は「自分は利用しない情報を必要としているらしい誰かさん」を思い浮かべることになる。これはまったく難しい。その本を必要としているのはどんな人で、どこにいるのかを、一体どうしたらつかめるのか。

ある専門領域の指導者が「こんな本が生徒には必要だ」と考えて作った本であっても、あまり生徒は購入しなかった、などということも少なくない(そういった書籍の "出版の意義" は、また別の話)。どうやら「こんな本があれば」という利用者の感覚だけでは "読者" をとらえるには不十分なようである。もう片方の車輪として、利用者全体、いわゆる "市場" からの視点が必要になるのであろう。利用者から見聞きしたもの、そこから考えたことが、その領域全体の傾向に照らしてどんな位置づけにあるのかを知ることで、より確かな "読者像" に近づくことができる……こんなような、言ってしまえば当然のことを実感する機会が、最近は増えた。

編集者が "市場感覚" と "利用者の感覚" の両輪をそろえて読者に近づこうとすることが、良い本を世に送り出すことに繋がるのだろうな、と今は考えている。そのために、利用者の誰が、どんな思いを、どんな言葉で語るのか、受け取る "耳" をもっていたい。

これからも "あなた" の言葉を聞きにきます。
"あなた" の言葉を聞かせてください。

2014年もよろしくお願いします。

2013/12/24
nishino
西野マドカ