2014年06月

15通目(ヤ)

ふと思ったんだけども、文通ってのは、「お互いに相手の書いたものを読んで連想して、最後に相手に唐突な質問を投げつけて終わる」みたいな感じなのね。今更だけど実感したわ。

けっこうな昔、雑誌に「文通相手募集覧」があった頃。今よりも個人情報の保護が圧倒的にゆるい時代で、みんながみんな「当方大学生、純文学とビリー・ジョエルが好きです」なんて簡単なプロフィールを、実名・実住所を添えて投稿しちゃうわけよ。あぶないよねえ。すると、雑誌の読者から実際に手紙が来ちゃうんですよ。「はじめまして。お花とネコと河川敷が好きな19歳、短大生です。興味がありましたので一筆差し上げます。もし私でよろしければ文通しませんか?」なんてね。私でよろしければってこの文章であなたの何がわかるってんだよ、っていうツッコミはヤボなわけ。かわいい女の子を想像できれば十分なんですよ。お互いにね。

今なら考えられない。でもこういう時代があった。IT時代のスピードと悪意に飲み込まれてしまって絶滅した文化です。LINE IDさらしとけばチャットできちゃう時代にあえて文通ってのは、なんとも昭和心をくすぐるなあと思ったことがある。

ところで文通ってのは、「話したい相手がいるから話しかける」とか「自分の心の奥底から湧き出てくる何かを手紙にしたためて送る」っていうよりも、「とにかく文通というちょっとドキドキする趣味に没頭してみたい」っていう意欲の方が先に立ってしまうタイプの趣味かもね。どうしたって見ず知らずの女性……性別だって本当はあてにならないんだけど、とにかくその謎の女性(仮)とのやりとりを「継続させる」方にばかり集中していく。そのためには、多少唐突だろうとも文章の最後に質問とか問題提起をおいておく。すると、とりあえず返事をもらえる。返事にも「お返し」とばかりに近況を尋ねる質問とかが入ってるわけ。それでやりとりを続けていく。内容が多少飛んでいてもかまわないの。ま、文通ってそういうもんだよね。

だからいいんだけどさ。
長い前フリでフォローしたけどもだ。

何、この前回のやつ。コンサルティングの話も唐突だけどなんでこっから総合診療に飛んでいきなり病理にたどりつくんだ。無理矢理結びつけすぎだろう。編集者として原稿依頼したいなら文通形式じゃなくていいじゃないの。

文通は自称美女同士が夢もってやるもんだろうに、気合いが足りないわ。しっかりしろ。もっかい書き直せ。

2014/05/13
YandelJ
病理医ヤンデル

15通目(ま)

スーツ→ワインという流れからは夜景や猥談に話題を向けるのが定石という説をご披露いただいたということは、夜の社交場方面に舵を切れというサインかもしれないが、その可能性には気づかなかったことにして "ソムリエ" から連想した "コンサルティング" を題材に話を進めてみる。

なぜこの連想に至ったかは、次の用語解説を提示すればおわかりいただけるだろうか。

「コンサルティングとは専門知識を活用するなどし、客観的に現状業務を観察して現象を認識、問題点を指摘し、原因を分析し、対策案を示して企業の発展を助ける業務を行うこと」(Wikipedia「コンサルティング」より)。

企業と人材を結びつける "人材コンサルティング" という業種がある。これを生業とする人は、企業とその業界が人材に求める専門スキルを的確に把握しなくてはならない。と同時に、「この仕事に就きたい」と言っている眼前の人物の適性・能力を見極めねばならない。その際に測るのは専門スキルだけではなく、"はたらくこと" に必要となる総合的なスキルである。これらは社会全体の時流に影響されがちなため、人材コンサルティング業の人間は、自身が関わる業界の "スペシャリスト" に関する知識だけでなく、"ビジネスマン" に広く求められるスキルについても情報収集を重ねているらしい。

総合的、といえば。さまざまな疾患に対応可能な "ジェネラル" な診療能力をもつ医師の育成を目的とした臨床研修制度が導入されてから、今年で10年。目的達成率の検証はしかるべき機関が行っているのであろうが、少なくともジェネラルな診療能力をもつ医師を指す "総合診療医" という呼称は世間に浸透するまでになった。

総合診療医が所属する "総合診療科" という診療科は、さまざまな経緯から施設ごとに診療内容は大きく異なるそうだが、とある施設の総合診療科は現状 "あらゆる疾患" を対象とし、それらの "診断" に特化していると聞いた。

あらゆる疾患を対象にしていて、それらを診断することに特化した医師。

……おや。

総合診療医は患者の問診と身体所見、病理医は患者の臓器。それぞれ対峙する相手は違うけれど、対象とする領域の広さと、診断を求められるという点において両者は結構似ているような……というかコインの裏表みたいだなという考えがふと浮かんだのですが、どうでしょう? そうでもないですかね。

追伸:今後「ぽよ〜」の利用禁止。

2014/05/06
nishino
西野マドカ

14通目(ヤ)

スーツそしてワインと話が進んだのでさらに夜景や猥談へと話を広げるべきかもしれないが、ワインの話を続ける。

ソムリエが、このワインを飲むべきだという“絶対の1本”を心に置いている場合、これを患者……ではなかった客に「選ばせる」ために必要なスキルとは何か。言語化できるものではないらしい。

私であれば、ソムリエの敷いたレールに乗ってその“1本”にぜひたどり着かせてもらいたい。ソムリエにまかせず自分で自由に1本を決めたい人もいるだろうが、私の場合はどう考えても自分よりソムリエの方がワインに詳しいし愛着もある。小さい思いを軽く伝えてみた上で、せっかくならプロのソムリエの書いた台本に則ってみたい。ソムリエが言語化したワインや料理のうんちく、さらには言語化していない勘や経験まで、まるっと信じた上で自分が演者になればよい。自分より何倍も勉強しているプロの経験ごと飲み干すワインの味だ。付け焼き刃の知恵で選んだワインよりうまいに決まっている。全てが言語化されている必要はない。理屈で説明できないところが残っていた方がおもしろい。

以上は私の個人的な振る舞い方であるし、人によってソムリエに求めるものは千差万別であろう。もちろんそれでいい。

これに対し。

医療は、患者の経験や付け焼き刃の知恵で選んだ治療法よりも、患者より何倍も勉強しているプロの経験を反映した治療の方がいいし、「そこには理論がある」。言語化されていない理由で治療選択をするとか、患者に「自由に」治療を選ばせるなど言語道断である。

患者に選ばせるのは「もうこの選択肢ならあとはどれ選んでもたいして変わらないよ」か、「この選択肢だとどれを選んでもメリットとデメリットがあるけどあとは好みだよ」という段階での話。患者が選択を求められる前に、メリットが少ない選択肢やデメリットが多い選択肢については、言語化された医学理論があらかじめ切り落としてしまっているのである。切り落としの過程を含めて、一貫した医学理論を患者に丁寧に説明することこそが肝要だ。

患者が医者に求めているのは医師が個性を発揮することではない。疾病によって失われた自らの個性を取り戻すことだ。言語化されていない医療なんぞクソである。医療はアートだとうそぶく人間ほど、自らの医療理論を言語化できずに狭い経験で診断や治療を行っている……。

と、私の友人が言ってました。ぼくはそんなこと言わないぽよ~

2014/04/29
YandelJ
病理医ヤンデル

14通目(ま)

オーダーできるスーツは百貨店などでも紳士服売り場に限定されており、基本的に男性向けに展開されている企画である。そういえば私もスーツを誂えたことがない。女性向けにも展開されていれば1着くらいお願いしてみたいと思ったこともあるが、基本的にワイシャツで着回す(らしい)男性と違って、各パーツにあれこれバリエーションをもたせねばならない/もたせたい女性としては、オーダースーツ1着分の金額で10アイテムは揃えたいという声のほうが多そうである。今後もスーツを仕立てる機会は訪れそうにない。

未経験のサービスなので想像だが、スーツをオーダーする際には顧客は自身の希望を伝える必要があろうし、店員も顧客がどのような商品を求めているのかを詳細に聞き取ることが求められよう。

このような「顧客に対するヒアリング」をいかに抜け漏れなく行うかが肝要だ、それこそが同業他者に差をつけるスキルである、というようなことをよく聞くようになったのはここ10年くらいだろうか。こうなると「ウチにはこれしかないんでね」では、他人様の財布の紐を緩めるのは難しくなってくる。だからサービス提供側は、顧客の希望どおりの商品を提供することに心血を注ぐ……のかといえば、必ずしもそうでもなさそうで。やはり「ほぼ無限に存在する型の中から似合うであろうセミオーダーデザインを2つか3つ顧客に提示して客に選ばせている」のが実際のところのようだ。

さらに。その "2つか3つ" から、サービス提供側が考える "任意の1つ" を、顧客には「自分の意志で選んだ」と思わせつつ選択させるというスキルがあるらしい。

ソムリエをやっている友人は「客の希望に応えられるのはこの3本だけど絶対この1本だ」というワインが必ずあると言っていた。懇意にしているデザイナーは「気合いの入ったプレゼンの時は "保守案"、"王道案"、"冒険案" の3案を用意するけど、ぜひ採用してほしい1案がある」と言う。その1案を選ばせるような一定の "レール" に顧客を乗せながら、彼らに「自分の希望どおりの内容になった」と思わせ、満足させているらしいのだ。何度かそのスキルについて尋ねているのだが、どうも言語化は難しいらしい。今のところわかっているのは「場数ふめばいいってもんでもない」というくらい。治療選択肢を提示する医師の間では、そんなスキルの話題は出たりするのだろうか。

ということで。前回のお手紙の「正直に言えば」の続き、お待ちしています。

あぁ、そういえば。前回のお手紙が届いた際に「おもしろいけど先生の言いたいこと伝わりにくくないですか」とメールしたら、「いっぱしの編集者ヅラしたメールが西野から届いた」とツイッター上で晒されましたけど。あのメールも一種のヒアリングですので、あしからず。

2014/04/22
nishino
西野マドカ
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プロフィール

sayonara_bun2

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ごく簡単に書き手をご紹介
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病理医ヤンデル(@Dr_yandel)
 1978年生まれ
 北海道出身
 札幌市在住
 市中病院勤務

西野マドカ(@nsn_mdk)
 1978年生まれ
 東北出身
 東京都在住
 出版社勤務
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